凪良ゆう『全ての恋は病から』 感想

 

凪良ゆう,2010『全ての恋は病から』白泉社.

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あらすじ

大学生の夏市は、いつも人肌に触れてないとダメな謎の持病の持ち主。その隣に越してきた先輩・椎名はクールでモテモテだが、ひどく汚れた部屋に住む片づけられない男。そんな2人が契約を結ぶことに…(公式より)

 

  • 要素……美人受け、年下攻め
  • 当て馬キャラが出てくる

 

 

感想・レビュー(ネタバレ注意)

 

 凪良ゆうの作品といえば『美しい彼』シリーズですが、この『全ての恋は病から』も大好きな作品です。

 「24時間・365日人肌に触れていたい病×片づけられない症候群」というギャグみたいな設定なのですが、事態はかなり深刻です。

 はじめは犬猿の仲の先輩・後輩として始まった二人ですが、実は「病」を抱えるまでにはそれぞれバックグラウンドがあるのです。

 ゲイの夏市は、四人兄弟の長男で、幼いころから三つ子の弟たちの世話をしてきました。大きくなった弟たちが離れていき、夏市は「手が空っぽで寂しい!」と気がつきます。しかし、人肌を求めるも、触りたいのは男のみ。あやうく同級生を襲いそうになる欲求を、父親が買ってきてくれた巨大なぬいぐるみでごまかす日々です。恋人ができても、スキンシップが過剰すぎてフラれるという……

 対して、クールな美人の椎名は見た目に反して汚部屋の住人です。礼儀に厳しい祖母に育てられた過去があり、食べ物を好き嫌いしたりきちんと片づけをしなかったりすると竹定規で叩かれるなど、とにかく厳しいしつけを受けてきました。「自堕落な生活がしたい」という欲求がどんどん膨らみ、一人暮らしで解放されたパターンです。

 

 アパートの隣同士に住む2人は利害の一致から、片づけとスキンシップを交換します。毎日、部屋を行き来してお互いに契約を果たすうち、紆余曲折あってお互いが大切な存在だと気づくのです。

 この小説の好きなところは、それぞれの「病」をお互いが受け入れ補い合って、ケアし合っていくところです。契約から始まる関係ですが、病気として矯正させられたり無理に克服させられたりすることはありません。それぞれの過去や事情を話し合った上で、じゃあこうすればもっと楽になるよね、俺の方が料理は得意だから、その代わりもっと……というふうに、年下だけどお兄ちゃん気質の夏市がわがままな椎名の面倒を見る様子は、読んでいて安心します。その分、夏市は椎名を甘やかしたりかわいがったり、モフモフ(スキンシップのことです)を求めたりするのですが、椎名もそれにうまく応えていてかわいいです。

 コメディタッチではありますが、キャラクターの生育環境やストーリーの展開がよく練られているからこそ、さくさく楽しく読めるのだと思います。

 構成や文体やサブキャラクターとのかかわりなど、もう「凪良ゆう小説うますぎ」しか言えなくなってしまうんですが、小説が上手いことはエロシーンに凝縮されていると思います。心情描写もだし、セリフや喘ぎ声もだし、字の文の言葉選びもだし、スピード感があるのに丁寧というか、今どんなふうになってるか情景としてちゃんと頭に浮かぶのです。ちょっとまって今これ両足どうなってるん?とか煩わされることもなく、BLに没入して読める安心感があります。

 シリアスな凪良ゆうを読んでる人でも、凪良ゆうはほんとになんでも書けるんだ…ともっとファンになってしまうんではないでしょうか。読んでよかった~!ってなる作品です。