マッチングアプリの話①

 

 

 年齢=恋人いない歴だが、将来を約束してくれる相手がいるというのは謎の自信をもたせてくれる。けれども恋愛もセックスも経験しないのはなんとなくもったいない気がして、SNSで相手を漁った。

 

 恋愛と性愛と友愛はすべて別であって、わたしはそれぞれの分野にそれぞれパートナーがいていい。生産性ばかり叫ぶ異性愛中心主義や恋愛伴侶規範にまみれたモノガミーなど、優生的で差別を内包する婚姻制度など廃れてしまえ

 と思っていたので、人生を約束した好きな女がいることと、異性愛を「体験」することは矛盾しなかった。

 

 

 最初に参加したのはBDSMコミュニティだった。

 

 関わりたくない変な人もいるが、真面目で優しい人もたくさんいた。やりたいプレイや理想の契約関係を擦り合わせる作業の中で、なんでもないおはようおやすみの挨拶や仕事の話、生活の話をした。社会で期待される男性性への葛藤や変態性をパートナーに開示できない不安について聞きながら、私もまたセクシュアリティの悩みやコンプレックスについて話した。

 

 S女は割合的に少ない。はっきり言えば、相手を選べる。しかしそこで問題に直面する。わたしは「女」ではないという違和感が、ひたひたとわたしを苦しめた。

 求められているのはSの「女性」だった。「S女」のアカウントを作り、加虐支配やSMプレイに関する呟きをネットに放り投げた。SMグッズを通販し、ディルドやペニバンとともにセクシーな衣装を着て、顔が映らない自撮り写真をアップした。「女王様」のコスプレをしていたようなものだ。M男性のアカウントからいくつも通知が来た。

 SだろうがMだろうが、結局女が欲望のケアを担わされることにうんざりしながら、わたしは「女」になろうとした。

 

 粘膜接触や挿入、衣服を着崩すことなど、NG行為を挙げる。返信が丁寧で、よく受け止めてくれる男性の一人と、私は会うことにした。

 

 SMイベントに連れて行ってもらい、ラブホテルに入った。その人は全て私の望みを叶えてくれた。初心者の私にアナル洗浄を見せてくれた。何本ものディルドをもってきてくれて、使用感を説明してくれた。自分の体を使い、前立腺の位置や触り方を教えてくれた。私は服を着たまま裸の背中に鞭を振り、罵倒し、気遣い、ペニスバンドをつけて腰を動かし、蝋燭を垂らした。

 帰路につきながら思ったのは「他人とやる性行為はコスパが悪いな」ということだった。「セックスはこの先やらないだろうな」とも思った。

 

 好きな女にこの体験について話したが、深く聞かれることもなかった。無事でよかったよ、と言ってくれて、ツイートにいいねがきた。

 わたしは物足りなくて、もっと試してみることにする。